第四章

 そして、入り口の前に立ちふさがるいくつもの背中ようやく気づく。喧騒の元である集団がこちらに近寄って来れないのは、黒で統一された装備に身を固める者たちが、透明の大楯を持って壁を作っているからだ。

 その内のひとりが、開いたエレベーターに気づいて首だけで振り向く。

「レゾンの合図で道を作る! その間に走れ!」

 張りあげた声に慣れていないヴィオレは、勢いに流されるままに頷いた。

 知らない人間が、想像もしていなかった数で、しかもこちらに向かおうとしている。ことの異常さは、ヴィオレの想像をはるかに超えていた。ペストが浅間に入ったなど、なんでもないように思えてくる。

「生き残りたいのさ」

 レゾンの声には、呆れや諦めが多分に含まれていた。

 人間だったらため息混じりだっただろう。

「自分が生き残りたいから、生き延びるための唯一の方法すら邪魔してしまう。本能が理性の邪魔をして、結果生き残れない道を選んでしまう──まぁ、そこが愛おしいとも言えるがね」

 愛おしい。

 そんなことを感じる余裕はヴィオレにはなかった。レゾンはこの場の異様さを感じているのだろうか。雰囲気を読み取る機能は人工知能にあるか、正直疑わしいところではある。それとも、長く起動していればこの程度、さして驚くようなものでもないのだろうか。

「カウントを始める」

 あえて突き放すような口調を選んだのは、レゾンの意図だろう。

 なにはともあれ落ち着かなければ、この場を脱することはできない。ヴィオレの戦場はここではないのだから。

「三、二、一、走れ!」

「おおおっ!」