第二章
自分の能力──念動力の使い勝手の悪さにため息をつきながら、ヴィオレは鉄階段を登り始めた。かつては地上付近にあった塔の出入り口は、浅間の保護の観点から塞がれている。塔から浅間へ入るには、鉄階段を登って最上部にある扉を通るしかない。
かつり、かつり、と硬い足音が鳴る。他に聞こえてくるのは、浅間では聞こえない風の音だけだ。ヴィオレは耳に挿していたイヤフォンを抜き、ビニール袋と一緒に持つ。
高いところまで登れば、黒くて狭い大地と、その周りを囲う白い雲が見える。頭上には薄青の空が広がり、まだ昇りきっていない太陽が弱い光を投げかけている。
雲がなければ麓の木々が色づいているのが見えるだろうし、もう少しすれば黒い地面も雪に覆われる、そんな季節だ。景色の移り変わりだけならばヴィオレも歓迎できるのだが、雪が降ると足元がおぼつかなくなるのが難点ではあった。
休み休み階段を登ると、しばらくしてようやく浅間への入り口が見えてきた。
分厚い鉄扉を押し開く。中は狭い空間になっていて、奥にもう一枚、見るからに重そうな扉がある。
二重扉は、外から流れ込む汚染物質を可能な限り排除するための作りだ。ヴィオレは外への扉を完全に閉めると、手に持っていたDNAサンプルとイヤフォン、首に巻いていたマイクを蓋つきの棚の中に入れ、身にまとっていた衣服を全て脱いだ。
衣服をダストシュートへ投げ込めば、カメラ越しにヴィオレを見ていたオペレーターが天井からシャワーを降らす。