第二章 危殆はトラブルと共に
そんな悪夢を身を持って体験したリッキーは、学んだ。
なんとかできると虚勢を張る前に、やれる事はやらなくてはならないと。そして物事というのは、そう簡単に上手くはいかないと。
だから卑屈な話、イアンが持ち出した話でさえもリッキーは疑って掛かった。そしてそれはこの場にいる今現在もである。この場に目的の物があるのか。
しかし、そんなリッキーに対し女性は告げる。
「あるわよ」
軽々しく。
平然と。
淡々と。
「……はい?」
虚を突かれたリッキーは、頬をポリポリ掻きながら間抜けな声を吐き出した。
「あるわよ」
「えっと……何が?」
「魔薬(エリクシル)」
ドン、と。
女性は背後ろの棚の中から何かを取り出してカウンターの上に置く。
見れば、それは手のひら程度の大きさの小瓶だった。怪しく微弱に緑色に発光する液体が詰められた小瓶だった。
無数の気泡が浮かぶその液体は、日常生活に於いては明らかに縁のなさそうな物々しい雰囲気を醸し出している。それこそ、魔女が大釜でグツグツ煮込んで作り上げる妙薬のような奇怪な液体だ。
魔薬(エリクシル)。
自然界に存在する薬草や霊草、霊木などを元に精製される薬品の総称である。
魔薬(エリクシル)は、それ自体が多量の魔力を有しており、服用した者の魔力を回復させる効能を持つ──のだが、それは付随的効能でしかない事を明らかにしなければ些か誤解を生んでしまう。
魔薬(エリクシル)の用途とは、魔力回復の助長、自然回復力の底上げ。つまるところの滋養強壮的な意味合いが強い。