第一章 トラブルは横暴幼女と共に
そして精霊であれば持ちうる力がある。
精霊魔術。
確か、そんな名をした現象だったはずだとリッキーは駆けながら思考する。
精霊魔術とは、精霊が持つ能力を指す言葉だ。力の内容は精霊個人で異なり、基本的には魔力を削って使用するものである。
人間が持ちえない力。
リッキーには、精霊契約を断り続けている内、戦闘により無理矢理契約へ持ち込もうとする数多の精霊を拳でねじ伏せてきた経緯がある。そんな折、やはり持ち出されるのは精霊魔術だった。
ある者は水を操り、ある者は獣を従え、またある者は体の一部を肥大化させたりと、その能力の種類は多岐にわたる。
幼女の額に浮かぶ汗は、魔力消費による疲弊の表れか。
「起きてるかお前!」
返事はやはりない。
瞳は半開きで光がない。
この怪我を負った状態で意識もままならないのに、よく精霊魔術なんてを使ったなとリッキーは驚嘆する。
しかし、おかげで間一髪助かった。
ただそれでも追われている状況が変わったわけではない。逃走の足を止めるわけにはいかない。後方にはまだ多数の骸骨が控えているのだから。
──どうする! どこに逃げたらいい!
リッキーは周囲を見て状況を整理する。
通りは大勢の人で溢れ返っていて、あまつさえそれだけで厄介であるにも関わらず、数度の爆発を目の当たりにしてパニックを引き起こし、錯乱状態。かき分けて突破するのは困難を極める。
この、人流が飽和状態に陥っている理由としては、進行方向約五十メートル程先に、街の各エリアへ進むための分岐が集まる巨大噴水広場の存在があるからだろう。