任務完了

 ……強制ログアウトされました_


「任務完了」

 廃虚のようになってしまったビルを眺める。

 先ほど、つい7分前くらいまでは、とても立派なビルが建っていた。

 2ヶ月前に建てられたビルで、最新の防弾ガラスを窓に用いり、複装甲型戦闘歩兵を警備ロボットに採用していた。

 そんなビルが今は、窓が全部割れ、警備ロボットは凹んでる物や、刃物で切り刻まれた物まである。

 ビル自体も上のほうは鉄筋の骨組みが剥き出しで、その骨組みも大きく歪んでいる。

 これをたった2人と1匹でやってしまったのだから、すごいものだ。

「報告とターゲット始末の確認は済んだか?」

 背後から低く渋い声が声をかけてきたので振り返る。

 後ろに人影はなく、赤い頭巾をかぶった猫がいるだけだ。

 猫は自分の前足をペロペロと舐めている。

「んっ、北田とか言ったな? 聞いておるのか!」

 猫の口から先ほどの低く渋い声が発せられる。

 先ほど会ったばかりなので、未だに慣れない。

 良く見ると猫の舐めている前足は、血で赤く染まっている。

「……おいっ、小生の質問に答えぬか」

「……あっ、はい! ターゲットの強制ログアウトは確認しました! 本部に連絡したいのですが、特別携帯端末はボスが持っているため、報告は完了しておりません!」

「そうか、ボスはどこにいるんだ?」

 猫にそう言われ当たりを見渡すが地上には、俺と猫しかいない。

「すみません、まだ居場所が「ダディ〜〜……」

 猫の質問に答えようとしたら頭上から女の子の声が聞こえてきた。

 空から降ってきた女の子は、頭巾をかぶり、左手にはクローを装着している。

「……今! 上から見てた ……血! 舐めてた!」

「違う! 舐めておらん! 見間違いだ!」

 幼女がジリジリと近づくと猫は怯えているのか、尻尾がぴーんっと立っている。

「北田! 助けぬか!」

「家族の問題は家族内で解決したほうがいいかと存じ上げます」

「白状者……」

 猫と幼女を無視して、ボスを探しに行くため、今にも崩れそうなビルに入る。

 エレベーターは案の定使えないが、階段は健在だ。

 12階建てなので登るのは嫌になるがあのボスのことだ、また高いところで今日の自分の活躍でも振り返っているのだろう。



 今日の作戦を振り返る。

 まず、ボスと幼女と猫の2人と1匹でビル内部にいる敵を撃破しながら、ターゲットまでたどり着き暗殺。

 その間、もしターゲットが逃げるようなら俺が別のビルからスナイパーライフルで射殺。

 だが結局、俺の出番は無く7分程度で今回の任務は完了してしまった。



 なんとか12階にたどり着いた。

 ボスは多分見晴らしのいいとこで地上を見渡しているだろう。

 12階には部屋が1つしかないようだ、そこに向かって歩を進める。

 あと少しで部屋に入るというところで、鈍い音共に後方から体格のいい男が飛んできた。 何があったのか、後ろを振り返り確認する。

「北田 雅人!任務は帰るまでが任務なんだぞ?」

 後ろには、スクール水着を着た幼女がやけにトゲトゲしい木の棒を持って立っていた。

 これが俺のボスなんだが、レア度の低いこの武器で最新設備のビルを破壊したのだから、普通の人間のキャパシティーじゃない。

「ボス、本部に任務終了の報告をしたいので通信機器を貸してください」

「あ〜あれね、壊したよ? て〜か雅人くん、この装備でそんなもんどこに持ってるって言うんだよ」

 イジワルそうに笑うボスに殺意を抱いたが、どう頑張っても勝てないので諦める。

「じゃぁ、みんなで歩いて帰りますか」

 ボスにそう言われ、メンバーを思い出す。

 スクール水着を着た幼女に赤い頭巾をかぶった幼女それと猫。



 ……1人で帰りたかったがボスに逆らえるはずもなく、人通りの多い街を後ろ指刺されながら歩いて帰った。