つぼいりませんか
俺が目を覚ましたのは午前五時、日が昇るかどうかという時間帯の頃だった。
早朝にも関わらず扉を叩く音がする。せめてインターフォンの呼び出しを使えと思いながらもそれに応じる気力はない。
まあ、たとえインターフォンの呼び出しを使っていたとしても、こんな非常識な時間帯に押しかけてくる奴にロクな人間なんているわけがないと相場は決まっているから、扉を開ける気はない。全くない。皆無といっていい。
ガスガスと扉を叩く音が聞こえる。
この手の輩は少し放っておけばすぐに立ち去る。
俺は布団を被りなおして再び横になる。ふざけんな。こちとらあと二時間後には仕事に向かわなければならない。守りの姿勢、徹底抗戦の構えだ。
しかし心なしかノックの音が大きくなっている気もする。が、気のせいだと思う。思いたい。
……ガンガンと扉を叩く音がする。
手で小突いているような、とか、そんな可愛らしい表現では済まないくらいデカい音が廊下を挟んだリビング兼寝室にまで届いている。
というか、あれ? これ……蹴ってねえか?
ガツンガツン! と扉を何かで強打する音がする……!
ちょ、これ、明らかに手で小突いてないよね? 鈍器の様な何かで殴打している鈍い音が木霊してるよねコレ!?
そして次の瞬間、ガラスが割れるような甲高い音が鳴り響いた。
俺は布団を蹴飛ばし、玄関へ走った。視界に入ってくる玄関の景観に異常はなさそうだが、さっきの音は不可解すぎる。扉を蹴り開けて外の様子を確認してみれば、チャイナ服を着た幼い少女が大きな壺を抱きかかえているのが見えた。
併せて、少女の足元に散らばる破砕片も。
「……あー、と……こんな朝早くから、どうしたのかな? お嬢ちゃん」
呂律が上手く回らない。噛みながら尋ねると、少女は壺を持ち直しながらゆっくりと口を開いた。
「えっと、主は言いました。この運気のあがるツボを買えば、大丈X」
少女の背後には、大きな壺がまだまだ山の様にあった。