〇〇八

 そうなると電波な話ではあるが、失踪者は山羊の姿に変えられていると考えた方が、辻褄が合う。

 仮に、もしも外から誰かが山羊を運び込んで来たする。

 しかしそもそもメリットがない。

 なぜならバフォメットは壁を削り取るからだ。削り取られたまま放置をすれば、いずれは壁が崩壊し、ヴォルフが日常的に街へ入りこんでくる。

 では逆に、壁が削り取られてメリットがあるのは誰で、何故有益なのか。

 そう思案した時、真っ先に出てくるのは金銭的なメリットである。

 壁の保有者は軍部。

 施工費と報酬は軍部から出される。

 これは外部に委託する事業であるから儲かるのは民間。となれば建築系の企業が飛びつくのは想像に難くない。

 問題があるとすれば競合他社。

 つまり、同じ職種の会社との取り合いだ。

「……まさか」

 ロニは、事務所へ向かう前のシルベスタとのやり取りを思い出す。

 同時、あらゆる言葉と単語が濁流のように頭の奥底から溢れ出てくるのを感じた。

 外壁補強。

 外部委託。資金の流れ。

 施工周期。三年前に変更。何故。

 山羊の生息──嘘。狼との共生──不可。

 水。硬水。重くてしまりのある味。ミネラル分。