序章 青天霹靂/マ王降臨

「痛みの先にご招待」

 そう言って青年は駆け出す。

 もがき苦しむサージタリウスに向かって奔る青年は、凶悪な笑みを浮かべていた。

 そして数瞬の後、解き放たれた黒が──炸裂する。


   *


『――佐山ちゃーんお待たせ。GUILDのBBSの過去ログ引っ張ってきたよ』

 路上に転がったイヤフォンから声がする。

『どうやら人型らしいんだよねー、マ王って。佐山ちゃんが殺ったのって獣型って言ってたでしょ? だから本体じゃ無かったのかも』

『ちょっと聞いてる? ん。そうだ。参考になるか分からないけど、身体的特徴だけ伝えておくわね。ええと、まずは格好。黒いパーカーと黒いワークパンツ? なにこの服装……まあいいか。顔はまあまあって書いてあるわ。まあまあの意味が分からないけど。髪は黒で見た目は若いらしいああ、それと――』

 ――ミシリ、という音と共にイヤフォンが茶色のショートブーツに踏み潰された。と言うよりも、歩みを進める最中で踏んでしまったと説明した方が正しい。

 そのまま止まることなくブーツの人物は足を進める。

 粉微塵になり果てたイヤホン。

 血まみれの携帯端末。

 滅茶苦茶になった四肢と身体。

 後方に横たわるそれら三つの風景を置き去りに、ブーツの人物は歩み続けながら空を仰ぐ。


「そうさ。俺がマ王だ」


 小さな呟きは、闇に紛れて薄れて消えた。