序章 青天霹靂/マ王降臨
「いや、少し気になる事がある。そこで頼みたい事があるんだ。喜べ。お前の得意な検索の時間だ」
*
人通りの少ない裏通りから少し離れた大通り。赤と黄色のテールランプがずらりと連なり、大規模な渋滞が起こっていた。
片側二車線の道路を車が埋め尽くす。
歩道と車道が入り混じる交差点は、行き交う人々でざわめくスクランブル。
ある者は携帯片手に通話中。ある者はコンビニ前で仲間とたむろし、ある者は店の前でチラシを配りつつ呼び込み中か。
夜も深まる時間帯だが終息の兆しは、無い。
そんな街中――
「――――あ、あれ!」
突如として響き渡る焦燥に満ちた女の声が、真夜中の喧騒をぶち抜いた。
その隣に居た華やかなドレス姿の女は、虚空に向けて指を差す女につられて空を見上げる。
近くを横切ったサラリーマン風の男は、車輪付きのスーツケースを両手で引きながら顔を上げ、交差点近くで看板持ちをしていた作業服の老人は空を仰ぐ。
二人で談笑しながら交差点を渡っていた制服姿の女子高生たちは、立ち止まって空に視線を向けた。
『空を見る』もしくは『視線を上げる』という挙動が瞬く間に伝染していく――
スクランブル交差点の奔流が停止。
信号は切り替わりの予兆を点滅で知らせる。
夜道を照らすべき星の光は、人工灯で塗り潰されていて視覚できない。しかし、人々の目はハッキリとそれを捉えていた。
天を衝くほど高く聳え、夜空を狭めている高層ビルの輪郭を。