introduction
ポン、と気の抜けた音が鳴り、チャットログの蓄積を知らせる。
グループチャットのアイコンをクリックして画面を展開するとログが三百近く溜まっていた。
もうこんなに溜まっているのか、と思いながらマウスホイールで下にスクロールしていると再び気の抜けた音が。
シューちゃん、おかえりー
私たち、もう入ろうと思うんだけど、シューちゃんどうする?
一番下に表示された最新のチャットログ。
早速か、と苦笑するが嫌な気はしない。
柊介はデスクチェストにしまい込んだヘッドフォンを取り出して耳にあてた。
ヘッドフォンには丁度目の位置に当たる所に、半透明ブラックアクリル板の目隠しのような物がくっ付いていて、視界の色が一気にトーンダウンした。そしてUSB配線をパソコン横にあるホワイトカラーのボックスに接続。
空腹感はあまりないから夕食は後でも問題ない。
風呂もまだいいだろう。
柊介は椅子に腰かけ、片手でキーボードを叩いてチャットを返した。
大丈夫
僕も行くよ
ホワイトカラーのボックスの電源をオン。ヘッドフォン横に付いたスイッチをスライド。ネットワーク接続をするために必要となるアカウント情報やアドレスの読み取りを開始。ボックスのファンが静かに回り始める。
何事もメリハリが大事だ。
確かに柊介は夕食も風呂も後回しにしている。しかし、それは日常生活においての話である。
これから始まるのは仕事と生活の線引き。日常と非日常の境界。