第一章 日常茶飯/街の風景A
前年の国会では認知度が高まりつつあるアフター*ダーク内の世界を、現実世界の政令指定都市として定めようという案件まで出されたぐらいだ。
これは政治的な面としてではなく、仮想の世界に住みだす国民を管理するためといった理由からだ。
実際、国家権力の一部は試験的に動作を開始しているようで、
「最近じゃ警察もついに電脳世界に拠点作ったらしいよー」
「なに? そうなのか?」
「法の適用がされてるくらいだもん。そんくらいやるよー。でもさ、そんなの蹴散らしちゃう人もいるわけじゃんここには」
「まあ、一部、のう」
「どうすんだろうねその辺フヒヒ」
「というか、既に自警団があったからのう。そっちとモメんか心配だ」
幼児の言葉に名綱は、「ああ」と短く相打ちをして、
「国士無双とかいう中国人系の奴らねー。そういえば最近見ないけど」
「ふむ。まあなんだ? その、古参のわっちたちは街が変わっていくのが寂しいんだろうな」
インディーズ性というべきか、秘匿性というべきか。
『知っている人が少ない』『自分だけが知っている』という秘密めいた事というのが好きな人間はたくさんいる。幼少期に誰しもが作った秘密基地などがいい例である。
人間は群生する生物であるが、その実、プライバシーを保持したがる。
名綱は幼児の言葉に共感できる部分があったので、軽く頷いて話を完結させた。
「それにしても、名綱の待ち人はいつまでたっても来んのう……」
「そういうあんたの待ち人も来ないじゃん」
「ふむ。まあ、なにぶん忙しいやつだからな」