第一章 日常茶飯/街の風景
ぶつかってしまった壮年の男に「す、すみません」とおどおどした様子で謝るも、相手は全く意に介していない様子ですたすたと喧騒の中に消えていった。
NPCだろうか? 面倒な事にならなくて良かった。と安堵していると右手に痛覚。
転倒の際についた手に、ジクリ、と染み渡るような感覚が走る。
「……………………………………血だ」
不思議な感覚だった。
痛みを感じる。
血が出る。
この瞬間、肉体的苦痛であるはずのそれらに、少年はある種の興奮を覚えた。
それは勿論、変態的な意味合いではなく、ゲームのプレイヤーとして、である。
――はは、は。これがバーチャルリアリティだなんて。
横スクロールアクションで蔓延していた単三電池四本で動くポータブルゲーム。
映像が立体になり、操作性が一気に向上したDISCリード型ハード。
画質の向上に加え、登場人物のアクションに合わせ、コントローラーが振動する機能が付随された次世代DISCリード型ハード。
これまで発表、発売されてきたゲームを列挙しても、このアフター*ダークには遠く及ばない。
いくらオンラインが普及して世界中の人々と一緒にプレイできるシステムを組み上げても、
いくら画質の向上を追い求め、臨場感、リアリティを突き詰めても、
――なんだこれは……比較にもならない。自分自身の意識を投影するゲームだって? 僕は今、超絶に感動している!!